今の 写真 は、平和だな

イメージ 1

 
  
  過剰な写真行為を三回続けたあと、同人は解散することとなった。

  時代の風景にたいしてノンという身体的表現としてあったブレやボケは世に亜流を生み、

  単なるスタイルとなりつつあった。


  真っ先に解散しようと言い出したのは、中平卓馬だった。

  バチーンと意を決したように解散を叫ぶと、独り出ていった。

  その潔癖な後ろ姿にみな脱帽した。


   
  「 解散を決めた集まりの帰りみち、Nはカバーをした一冊の本を私にさしだした。

    帰って見ると現代詩文庫の一冊、吉本隆明詩集であった。

    ページをくると、傍線が引かれた詩行があった。


       ぼくの孤独はほとんど極限に耐えられる

       ぼくの肉体はほとんど苛酷に耐えられる

       ぼくがたおれたらひとつの直接性がたおれる (中略)

       だから ちいさなやさしい群よ

       みんなひとつひとつの貌よ

       さようなら

  『来るべき言葉のために』でこれまでの仕事を総括したNは、己にブレること、ボケることを禁じ、

  冷めた視線を獲得するため、白日のもと出立する 」 

                        (高梨豊『我らの獲物は一滴の光』)



  かくしてN、中平卓馬は一九七七年、急性アルコール中毒症に倒れる。

  「ぼくがたおれたらひとつの直接性がたおれる」という名言を引いた本人自身の直接性がたおれたのだった。



             加藤哲郎  『昭和の写真家』 高梨豊の章より



----------------------------------------------------------------------------------



    要するに    なんだなぁ、

    イイ具合に熱病にかかると、

    「ファーストガンダムを観て、

    アニメ界に身を投じることになったり フィギアを作成することを

    まさしく 糧 にしちゃう」んだけど。


    モーレツな 発熱を続けると・・・、

    自己完結 自己帰結への道は・・・。


    本人 当事者が 接する可能性ゼロのブログだから 言わしてもらうと、

    中平卓馬氏は、ご自身の描写と言霊からの解放を、

    「えらく うまいこと やりやがったなっ」。


         sinnさんのブログで 初めて 中平卓馬 の存在を知った時に思ったようなこと

                                 by トンちゃん
    
    




-------------------------------------------------------------------------



             ちいさな群への挨拶


        あたたかい風とあたたかい家とはたいせつだ

        冬の背中からぼくをこごえさせるから

        冬の真むかうへでてゆくために

        ぼくはちいさな微温をたちきる

        おわりのない鎖 そのなかのひとつひとつの貌をわすれる

        ぼくが街路へほうりだされたために

        地球の脳髄は弛緩してしまう

        ぼくの苦しみぬいたことを繁殖させないために

        冬は女たちを遠ざける

        ぼくは何処までゆこうとも

        第四級の風てん病院をでられない

        ちいさなやさしい群よ

        昨日までかなしかった

        昨日までうれしかったひとびとよ

        冬はふたつの極からぼくたちを緊めあげる

        そうしてまだ生れないぼくたちの子供をけっして生れないようにする

        こわれやすい神経をもったぼくの仲間よ

        フロストの皮膜のしたで睡れ

        そのあいだにぼくは立去ろう

        ぼくたちの味方は破れ

        戦火が乾いた風にのってやってきそうだから

        ちいさなやさしい群よ

        苛酷なゆめとやさしいゆめが断ちきれるとき

        ぼくは何をしたろう

        ぼくの脳髄はおもたく ぼくの肩は疲れているから

        記憶という記憶はうっちゃらなくてはいけない

        みんなのやさしさといっしょに



        ぼくはでてゆく

        冬の圧力の真むこうへ

        ひとりっきりで耐えられないから

        たくさんのひとと手をつなぐというのは嘘だから

        ひとりっきりで抗争できないから

        たくさんのひとと手をつなぐというのは卑怯だから

        ぼくはでてゆく

        すべての時刻がむこうがわに加担しても

        ぼくたちがしはらったものを

        ずっと以前のぶんまでとりかえすために

        すでにいらなくなったものにそれを思いしらせるために

        ちいさなやさしい群よ

        みんなは思い出のひとつひとつだ

        ぼくはでてゆく

        嫌悪のひとつひとつに出遇うために

        ぼくはでてゆく

        無数の敵のどまん中へ

        ぼくは疲れている

        がぼくの瞋りは無尽蔵だ



        ぼくの孤独はほとんど極限に耐えられる

        ぼくの肉体はほとんど苛酷に耐えられる

        ぼくがたおれたらひとつの直接性がたおれる

        もたれあうことをきらった反抗がたおれる

        ぼくがたおれたら同胞はぼくの屍体を

        湿った忍従の穴へ埋めるにきまっている

        ぼくがたおれたら収奪者は勢いをもりかえす



        だから ちいさなやさしい群よ

        みんなひとつひとつの貌よ

        さようなら



        吉本隆明 「転位のための十篇」(昭和28)