GOOD BYE !!


目覚める前の夢

それは 

『忘れがたい思い出』か

『叶えられることのない願望』


あるいは

『愛している というかわりに』






帰宅すると、

隣の家との間の通路 奥に

気配を感じる。

セメント通路を駈ける 爪の音。

聞き慣れていた 足音。

通路を覗き込む。

黒い4足の影に、息を呑む。


愛犬のジミニ クリケットは 一年前に逝った。


黒いラブラドールが はしゃいでいた。


どうやら隣家の飼い犬らしい。

知らぬ間に、隣の住人は入れ替わっていた。


隣の

祖父母 若夫婦 

中学生から小学生の長男次男長女


は 何処かへ。


愛犬と見紛った犬には

さわることもなく、

見知らぬ隣の 奥さんに

「犬が 逃げ出していますよ」と告げる。


隣人同士の なにかしらの会話をする。

犬も交えながら。

犬に触ることはなく。



翌日、

あるいは 数日後。


帰宅し、スクーターを定位置に停める。

跨っていたシートを見下ろすと

必ず 思い出す感覚が。


帰宅すると

なによりも先に、

老犬の様子が気になる。


もう、一年前に失われた感覚。



玄関に入る。


年老いた両親を驚かせないように、、と、

視線を家の奥におくる。

母の そば に居た

敏感な4足の生き物が、僕の帰宅に気づく。

奥の部屋から、僕を見つめる。


隣の犬。


また、逃げ出したのか

預かったのか と考える間もなく

興奮し 喜びに満ちた黒ラブが、

僕を目がけて

凄まじい勢いで 走りだす。


受け止められるであろうか。


屈み込むように 両手を広げて 迎える寸前

嗚咽するかのように、叫んでしまった

『ジミニっっっ!!』


夢から 覚めた。


愛犬の名前を呼んで、目覚めたのか


いや、実際には 叫んでいなかった。


幼い頃のように、自分の泣き声で目覚めたか


いや、泣いてもいなかった。


 1年も経つというのに、

その名前を

『対象』に向かって呼んだ という衝撃で

目覚めただけだった。


抱きしめてから 叫べばよかったのに。


 

その夜。


こんな夢を 見たんだ

と、妻に話す。


「隣の犬が居て〜

そしたら、ダァーーって 走ってきてん。

叫んだわ

『     ジ・・・・・』」


とっくに、夢からは覚めていたが、

眠っていた感情が 言葉にすることで

目覚めてしまった。


実際に 

その『名前を呼ぶ』ことは なかった。










イメージ 1



正しくは、


愛している というかわりに

名前をつけて

愛している というかわりに

名前を呼んだ